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名古屋地方裁判所 昭和25年(ヨ)268号 決定

申請人 全日本自動車産業労働組合トヨタコロモ分会

右代表者 執行委員長

被申請人 トヨタ自動車工業株式会社

一、主  文

本件仮処分申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

二、理  由

申請人代理人は「被申請人会社が昭和二十五年五月三十一日附をもつて別紙目録記載の従業員に対してなした解雇の意思表示の効力を停止する。」との裁判を求め、その申請の理由として大要つぎのように述べた。

被申請人会社の従業員就業規則によれば、被申請人会社が止むを得ざる業務上の都合によりその従業員を解雇する場合には、必ず申請人分会の同意を経るを要する旨規定している。しかるに被申請人会社は昭和二十五年五月三十一日申請人分会の組合員である別紙目録記載の従業員に対し同年六月五日限り解雇する旨の通告をなしたが右解雇の通告にあたつては全然申請人分会の同意を得ていないのである。よつて右解雇の意思表示は当然無効であり、申請人分会は解雇無効確認の訴訟を提起すべく準備中であるが、とりあえず右解雇の意思表示の効力の停止を求めるため本仮処分申請に及ぶ次第である。

以下右仮処分申請の当否に対する当裁判所の判断の要旨を掲げる。被申請人会社には昭和二十四年八月一日より施行にかかる従業員就業規則があり、右規則の第四十九条、第八十一条によれば会社が止むを得ざる業務上の都合によつてその従業員を解雇する場合には申請人分会の同意を要する旨規定していること及び被申請人会社が本件従業員の解雇をなすに当つて申請人分会の同意を経ていないことは、申請人提出の各疏明資料によつてこれを窺うに十分である。

しかしながら一方被申請人挙示の疏明資料を総合すると次の事実が認め得られる。即ち、被申請人会社は本件解雇の通告をなすに先だち同年四月二十二日申請人分会との間に団体交渉を行い、その席上被申請人会社の経理内容が近時甚しく悪化し人件費の削減をなさざればとうてい会社の立ち行かない窮状を説明し、(1)人件費の節減をせざるを得ない。人数は芝浦及び蒲田を別にして本社在籍人員中より千六百名の希望退職者を募集する。(2)残留者については一割の賃下を行う。(3)希望退職者には退職金規定第一号表に基準賃金一ケ月分及び独身者三千円、世帯者五千円のせん別金を支給する。なお希望人員数に達せぬ場合は分会の同意を得てやめて貰う。その時はせん別金をつけない。(4)分工場は閉鎖したいが独立採算の見通しがつくものについては考慮する。(5)保険組合、生活協同組合及び病院は分離又は独立採算とする。(6)右の外給与制度の改革並びに強力な配置転換を行う。旨のいわゆる会社再建案を提出して分会との協議を要求し、その後本件解雇の通告をなすまでの間数回にわたつて右再建案の内容につき協議を重ねたが、ついに申請人分会の諒解を得るに至らなかつた。しかして右のように、被申請人会社が申請人分会の同意を得るため協議を申入れた人員整理の手段は主として被申請人会社の従業員中から希望退職者を募るという方法であり、本件におけるが如く従業員を一方的に解雇することについてはその方法や条件等につき申請人分会と少しも協議した形跡は見られない。被申請人会社の人員整理に対する態度がこのように微温的であり、従業員の解雇につき申請人分会の同意を要求しなかつた理由は恐らく次のような事情にもとづくものと考えられる。かねて被申請人会社と申請人分会との間には昭和二十四年十二月二十四日附をもつて締結せられた覚書があり、被申請人会社は「向う一年間は危機突破の手段として人員整理を絶対に行わない」旨を誓約していたため、被申請人会社としては右覚書の存在を無視して従業員を一方的に解雇することは分会に対する信義の上からいつてとうていできず(尤も右覚書はその後当裁判所において協約当事者の署名を欠くの故をもつて無効と判定されたが)。さりとて当時の被申請人会社の実情として業態は日々に悪化の途をたどり或る程度の人員整理を決行せざればとうてい企業の存続をはかり得ない苦境にあつたため、止むを得ず申請人分会に対し従業員の中から希望退職者を募るという穏かな方法で人員整理をなすことの諒解を懇請するに至つたのである。したがつて、この間の事情を最もよく察知していた筈の申請人分会としては、会社の窮境をすなおに直視しその提案を協力的態度をもつて検討した上その受諾可能な限度で速にこれを承認すべきであつたに拘らず、申請人分会は徒に自説を固執して譲らず協議のための交渉を長引かせたため、ついに被申請人会社をして申請人分会との交渉を断念し分会の同意を得ることなく一方的に整理を強行することを決意せしめ、別紙目録記載の八十九名を含む千二百数十名の従業員に対し解雇の通告を発するに至らしめたのである。かような訳で、被申請人会社の右処置は解雇の手続としては就業規則の定めるところと必ずしも一致せず、解雇の具体的内容(解雇の基準や条件など)について申請人分会と協議しその同意を経なかつた欠点はあるにしても、前示のごとき客観的事情のもとにおいては止むを得ない処置としてこれを是認する外なかろう。被申請人会社は申請人分会に対し従業員整理につき分会の同意を求めるため誠意をもつて交渉を為そうとしたに拘らず、申請人分会はその同意権をらん用し交渉を不法に拒否したため、被申請人会社は止むなく右同意を経ぬまま解雇を断行したのであり、右は一応適法な解雇として容認し得るのである。

以上のような次第で、本件解雇の意思表示は一応有効なものと判断せられ、したがつて右解雇の無効なることを前提とし冐頭掲記のような仮処分の裁判を求める申請人の申請は結局その疏明なきに帰しこれを排斥する外なく、よつて右仮処分申請を理由なきものとして却下することとし申請費用の負担につき民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用し主文のように決定したしだいである。

(裁判官 山口正夫 奧村義雄 夏目仲次)

別紙<省略>

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